老後に1人あたり2000万円が必要になるという話を覚えていますか?お金の問題ももちろんですが、病院や施設から溢れる確率も上がっています。そんなときに使える介護保険制度をこの記事ではお伝えしていきます。実質負担は1割で使える公的サービスを若いうちから知って老後のために現金だけではなく知識も貯めましょう

人生で使える時間
時代は超高齢社会です。私たちが90歳まで生きるとしましょう。90年という年月を時間単位にすると約788,400時間
しかし、この788,400時間を全て使えるわけではありません。内訳をみてください。
- 睡眠時間はその3分の1である236520時間
- 仕事に行く時間は約88200時間
- 学校などの教育時間約31360時間
- 食事、娯楽、整容などで約422465時間
90歳のうちの3分の1ですから、30年は寝ているのです。
実質起きているのは60年間(525600時間)です。
そのうちの10年間(88,200時間)は仕事に行っていますのでここで残るのは、50年間。この50年間を教育や自分のことに使えます。
あれ、意外と多い?と思った方、落ち着いて考えてみてください。この計算は寿命の話であって、自分で自分のことをできる年齢ではありません。
90歳まで自分の事、自分でできると思いますか?0歳から成人するまでも自己選択するには制約が多いです。
本当に自立して生活できる時間はこれよりもっと短いのです。20歳から70歳までとしましょう。もっと短いですよね。大体、432000時間しかありません。
よく、「人生100年時代」と言っている人いますが、生きてるだけの100年ととらえるのは無意味です。大多数の人が他の人の手を借りなければ生活ができなくなってきます。
老後どのくらい自分一人で生きていける?
病院で働いていて思うのが、非常にふり幅があります。90歳でも「原付に乗り畑を耕したいから早く退院したいわ!」と生き生きとした方もいれば、67歳でほとんど寝たきりで誰かが常に傍にいないと生きていけない方もいます。
老化のスピードの差に関していえば、それまでの習慣が大きく関与しています。
運動習慣があった、交友関係を持っていた、趣味があった、健康に気を付けた食事をしていたなど健康的な習慣があった人は比較的年齢を重ねても一人で生活することができている印象があります。
迷惑をかけずに自分の家で暮らしたい
私のささやかな願望なんですけどね。割と多いんじゃないんでしょうか?医療従事者をしている仲間と話をするといつも「自分でトイレいけなくなったらもうええわ」「風呂とかさ、デイで行くのいややでな」と自分たちの老後2000万円という老後資金よりも、手助けしてもらう方を心配しています。
そして、厚生労働省がとったデータの中にはどこで最期を迎えたいかというものがあります。
50%以上が自宅で最期を迎えたいと思っているなか、実際はほとんどの人が病院や施設で亡くなっています。
孤独死よりは病院や施設で亡くなるほうがまだいいですが、その時に心から涙してくれる職員はほぼいません。亡くなる予兆がなんとなくわかっているので医者から脂肪判定が出ると淡々と死後処置や事務作業が進められます。
では、なぜ自宅ではなく施設や病院で亡くなる方が増えているのでしょうか?背景としては核家族化、高齢化による認知機能の衰えがあり自宅で見れない、身寄りがないなど様々です
しかし、中にはサービスを使えば自分で家族にばかり頼らず、自分のできる範囲の身の回りの生活だけすれば自宅で過ごせることも多くあります。
介護保険を利用したサービスを使う
40歳~64歳までの働く世代の人たちはみんな介護保険料を払っています。税金から天引きされる項目が増えると思っていてください。この介護保険料は、今の高齢者の生活を支援するものです。65歳以上になり自分一人で生活が困難になったときに、市役所に医者に作成してもらった書類をもっていくと、役所の職員が認定調査をしにやってきます。
認定調査は主に2つあります。まずは本人面談をしていただきます、そして次にその内容が本当にあっているのかを家族や医療従事者に確認します。だいたい10分から30分ほどで終わります。
そこでどのくらいの日常生活自立度(通称ADL)や手段的日常生活動作(IADL)を評価します。運動面、認知面などを総合的に判断して受けられる介護保険の程度が決まります。
以下は厚生労働省からとってきた図です。現在の要支援、要介護を受けている人の割合です。高齢者の約20%が何かしらのサービスを使って自宅で過ごしています。この数字、多いと思いますか?少ないと思いますか?

ADLとIADLを簡単に説明します。より詳しくは以下のリンクから外部サイトに飛んでください。
ADLとは
- 食事
- 移動
- 排泄
- 寝返り
- 入浴
- 更衣や整容
IADLとは
- 掃除
- 洗濯
- 買い物
- 料理
- お金の管理
- 電話対応
- 薬の管理
が挙げられます。一般的にはIADLができなくなりADLの低下が起こるとされていますがはっきり分かれているわけではなく、ADLとIADLともにジワジワ落ちていくと思ってもらうといいです。
参考:学研cocofunより https://www.cocofump.co.jp/articles/kaigo/109/
要支援と要介護の違い
介護認定を受けてあなたは要介護1ですよ、と言われてもピンときませんよね。以下に示す図がある程度の基準になります。ある程度予測を立てることができます

こんな感じで分けられます。
この前申請を出した患者さんはこんな人でした。どのくらいの介護度が取れるか予測してみてください。
- 立ち上がりや、歩行は見守りか手をつなぐなど支えが必要
- お風呂は浴室をまたぐのに手すりがいる
- トイレも手すりがあれば自分でズボンを上げ下ろしできる
ここまで聞けば、要介護2くらいかなと思いますよね。しかし、この介護認定は運動面だけではなく精神面・認知面も加味しなければなりません!
追記するとこんな感じの人です
- 立ち上がりや、歩行は見守りか手をつなぐなど支えが必要。短期記憶障害が重く一人で外出できない
- お風呂は浴室をまたぐのに手すりがいるが体や頭を洗う手順が分からないため介助が必要
- トイレも手すりがあれば自分でズボンの上げ下ろしがいるが、拭いたり流したりできない
こうなると日常生活を送るのにほぼ100%だれかと一緒にいないと何もできません。その場合は要介護4まで上がります。頑張れば要介護5取れたりします。頑張ればというのは介護をする人の視点ですね。
介護認定を正しくとってもらうためのポイント
ポイント①
介護認定調査では、”できる方”ではなく”できない方”で点数をつけていきます
たまに意地悪な相談員さんだと「頑張ればご自分でできますかね?」と聞いてきますがそんな四六時中頑張れる高齢者がいるわけがないことをしっかり伝えていきましょう。老年期の身体的特徴と認知的特徴をとらえていますか?と強く出ましょう。
ポイント②
認知症の患者さんによっては外部の人間が来た時にだけなぜかすごくしっかりされる方もいらっしゃいます
そうなると本当に必要な介護認定が降りませんので個人面談ごの介護者と調査員との情報共有時にきちんと普段の様子をお伝えしてください。
ポイント③
介護するうえで絶対に困ることを話しておく
たとえば、
- 一人になると火の始末ができない
- トイレに一人で行ってもらわないと困る
- 足腰が弱ってきているためリハビリに通ってほしい
- 短期記憶障害があり、被害妄想がある
- 暴力や暴言、介護抵抗がある
ということは伝えておくといいです。家でみれるのかという判断材料にもなりますし、認定調査がおりて実際の介護度(要支援1~要介護5)が出たときにケアマネージャー(福祉道具やサービスの調整をしてくれるプロ)にも情報を伝えることができます。
受けられるサービス

受けられるサービスはそれぞれの介護度で変わってきます。
特に要支援では介護というよりは予防のための対策が取られます。
そして、大切な判断材料が要介護2と要介護3です。この2つは大きな違いがあります。
正直、要介護2までであれば家族の協力とサービスの利用をして在宅で見ることができるケースが多いです。しかし、要介護3になると必要な介護が増えてくるため介護者の負担が大きくなります。仕事や子育てをしながらだとかなりしんどいです。
そのため一つの基準として、要介護3以上で特別養護老人ホーム(特養)の入所が優先的にされます。もちろん要介護2以下でも介護老人保健施設(老健)への入所やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などへの入所も可能です。
施設の特徴
- 特別養護老人ホーム:終の棲家
- 介護老人保健施設:家に帰るための仮の住まい
- サービス付き高齢者向け住宅:専門スタッフが安否確認と相談に乗てくれる賃貸
となっています。実際に居住される方の違いもあります。
- 特別養護老人ホーム:生きていくうえでほぼすべてに介助が必要
- 介護老人保健施設:一部自分でできるが、介助が常時必要なことが多い
- サービス付き高齢者向け住宅:ほぼ自立だが一人暮らしは少し不安な人向け
まとめと余談
いかがでしたか?
ややこしそうに見える介護保険制度もわりと簡単にできます。というか医者から書類をもらって、市役所に行って申請したらあとは役所の人が手続きをしてくれますのでそんなに難しいものではありません。
病院で働いていて思うのですが、長く生きている方の人生で人の世話にならないといけなくなったのは数年だけなのに、邪魔者扱いされたり、ひどい言葉をかけられている人を見ることが多いです。一番辛いのが介護を受ける本人はなぜそんな扱いを受けているか分からないことです。夜中に一人で泣いている人もいます。「死んでから連絡してください。それまでは連絡もいりません、延命もいりません」と言われたときになんとお返事してよかったか、今も答えは出ていません。
使えるサービスはしっかり利用して、介護するときも、されるときもできるだけ自分の大切な人の思い出を汚さないで過ごせる人が増えることを願います
病院でいたモンスターペイシェントは以下の記事から箸休めにどうぞ
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